2000年12月26日火曜日

強者どもが夢の跡(C区Sにて)

クリスマス



 12月25日……クリスマス。聖夜である。
 冬の夜空にホワイトイルミネーションの光が瞬き、降り積もる雪が恋人たちを包み込む。二人の間に言葉はいらない。冬の夜空を見上げた二人の心に小さな明かりが灯る……なんて、心配は一切ない私にとって、この日は別の意味を持つ日だった。
  この日、無節操な拡大路線で我が身を滅ぼした大手百貨店Sが、不採算店舗の店終いをする日であった。
 数ある不採算店舗の中に、私が住むS市の店舗も含まれていた。
 最大のバーゲンは閉店セールとは百貨店の不吉なジンクス。
 ある意味、最大のワゴンセールっていうか、店ごとワゴンセールになる今回の閉店セールをぜひ見ておきたいと思い立ち、私は印刷屋のバイトを終えると、すぐさまSと向かったのであった。



阿鼻叫喚の地獄絵図



 その光景は、あまりにも異質で奇怪な光景だった。
 私は百貨店でもバイトをしているのだが、閉店直前のSはあまりにも見慣れない光景で、私は少しだけ動揺してしまった。
 1階――貴金属やバッグ、アクセサリの投げ売りに雲霞のごとく人々が群がっていた。
  ここまでの人が群がっている百貨店なんて見たことがない。
「これが閉店セールか…」
 のっけから私は脅かされた。



 その後、何か面白いものは売ってないかと、エスカレータに乗って店内を徘徊した。
 3階、4階、5階……フロアを見渡して感じるのは、とにかく広いということ。
 通常、百貨店は一つのフロアに複数の売り場やテナントを設けており、それぞれの売り場を什器や売り物で仕切っている。
 そのため、百貨店は一つのフロアにいくつもの店が並んでいる、まるで商店街のような様相となる。
 だが、今、目の前に広がるSの状況は違った。
 什器はあらかた撤去されており、売り場の仕切りは全くなくなっている。
 ただ、ワゴンに乗せた売り物を整然と並べているだけなのだ。
 しかも、閉店間際ということで人気商品は殆ど売れてしまったため、商品も人影もわりとまばらだった。
「百貨店はこんなに広いのか……」
 フロアの端から対面の端を眺めやりながら、私は呻き声を上げていた。
 百貨店の端から端まで眺められるなんて、普通の百貨店ではあり得ないことなのだ……まさに百貨店にとっての地獄絵図。
 そんな閑散とした光景の中、長い行列で一際目を引いている売り場があった。
 ディズニーグッズの販売店だった。
 この不況下、大したものを売っているわけでもないのに、ディズニーグッズにだけは人が群がっていた。
 ウォルト、あんたはやっぱりすげぇよ……



 その後、私はオーディオソフト売り場へ行った。
 全店が激安価格で放出しているのに対し、ここだけは割引率が15%と吝いものとなっていた(それでも邦楽CDが値引きされているのだから、特殊といえば特殊か)。
 これらのソフトは、その手のバイヤーに任されば、それなりの値段で取り引きされるからなのだろうけれど……往生際の悪さみたいものを垣間見てしまった。



 結局、全フロアを見て回ったがゲームは一切扱っていなかったので、店を後にしようとした。
 店を出ようとするとき、
「クリスマスプレゼントに、いかがですかーっ!」
 女性販売員が手にしたスカーフをはためかせながら、金切り声を上げていた。
「クリスマスにプレゼントにどうですかーっ! お安くしますよーっ!」
 恥も外聞も、見栄も体裁もかまっていられないのだろう。
 女性販売員は金切り声を上げながら スカーフを振り回していた。
 時計を見やると、すでに時刻はPM7:40。
 閉店まで残り20分であった。
 彼女の奇声に物珍しさも手伝って、徐々に人々が集まってきた。
 そんな彼らに背を向けて、私はSを後にした。



強者の王国



 その後、私は大手家電ショップYへと向かった。
 もちろん、ここは閉店セールなどやっていない。
 だが、店舗正面の横断歩道で信号待ちをしている間にも、ひっきりなしに人が出入りしていた。
 これが日本経済を支えている要因なのか……ふとSでの女性販売員の金切り声が脳裏に蘇ってきた。



 店内に入ると、先月まで売っていた500円のセガサターン用のキーボードが無くなっていた。
 売り切れたのか、撤去されたのか……?
 いずれにせよ、私的には当コンテンツのネタが無くなり少し残念だった。
 その代わりではないが、ゲームソフトのワゴンセールでは『スーパープロデューサーズ(スパプロ)』が980円で売っていた。
 このゲームは多分、私が一生のうちで最もプレーしたゲームなのではないだろうか。
 このゲームほど、濃密に関わったゲームはない。
 なのに、私はこのゲームを持ってなかったりする。
「買うべきか…?」
 すでに今月をもって、スパプロ最大のウリであったネットワークサービスが停止している。
 つまり、このゲームにはもはや一円の価値もないといっても過言ではないのだ。
 逡巡する私。
 だが、気がつくと私は『スパプロ』を手にしてレジに向かっていた。
 ワゴンセールは時にして人間の思考を麻痺させる……



 Sの女性販売員の悲痛な声が未だに耳から離れない。



掘り出し物



百貨店の末期を眺められたこと



購入品



『スーパープロデューサーズ』



2000年12月13日水曜日

Rの奇妙な値付け(C区Rにて)

原初の地にて



 私に、このコンテンツを立ち上げさせるきっかけとなった、C区の百貨店Rでは奇妙な出来事が発生していた。



漸進的な値下げ(泥縄的ともいう)



 Rでは当初、プレステのソフトは全て定価で販売されていた。おそらく、SCEの勧告に律儀に対応していたであろう。
 ところが、それでは不人気ソフトは売れ残ってしまう。
 そこで『メディアボックス』のワゴンセールが始まるのと同時に、一部の売れ行きの悪いソフトを定価から20%オフで販売することにした。
『ドラゴンヴァラー』や『グランツーリスモ2』などの秀作もあったが、それ以外のほとんどは筋金入りの不人気ソフトばかり。
 当然、20%オフ程度では簡単には売れなかった。
 売れないソフト群に業を煮やした(と推測される)Rでは、しばらくすると何の予告もなしに30%オフとした。
 だが、それでも売れ行きは上がらず、いつもの面々は、いつもの位置に納まっていた。



 もう、こうなってしまうと、あとはヤケクソである。
 30%オフが40%オフになり、50%オフになるのも時間の問題であった。
 このような価格の推移を見守っていた私は、密かにある野望を抱いていた。
 ゲームとしては、さほど評価の高くない『攻殻機動隊』。
 このゲームも、このダンピング禍の中心にあったソフトである。
 ゲームとしては評価できないらしいが、原作のファンだった私は、このダンピングが加速化し、60%まで値引きされたら購入する腹づもりでいた。
 なぜ60%なのかというと、50%オフだと消費税込みで3000円を超えてしまうからである。
 60%オフだと【5800×(1-0.6)×1.05=2436】となり、2500円でお釣りが来る。この差は、精神的に相当な違いがある(と思う)。
 50%まで漸進的に値下げされてきたのだから、この勢いで60%まで値下げされるはずだ……と密かに期待していたのだが……



まちぼうけ



 それは『メディアボックス』のワゴンセールが撤去された日のことであった。
 ワゴンセールがなくなると当時に、プレステソフトの値下げも一斉に解除されてしまったのである。
 これまで半額でも売れなかったソフトたちが、一斉に定価へと引き戻され、売れ筋ソフトたちと、また肩を並べてしまったのである。
 無論、『攻殻機動隊』とて例外ではない。
 これは、かなりショックであった。
「こんなことなら半額でも良いから買っておけば良かった……」
 5800円の値札が張られた『攻殻機動隊』を前にして、私は『まちぼうけ』の寓話を思い出していた。



大逆転



 だが、物語はこれでは終わらなかった。
 年の瀬が押し迫ってきた12月11日。
 なんと、プレステソフトのワゴンセールが再開したのである。
 そのワゴンに並ぶのは、かつて50%までダンピングされた面々。
 しかも、その価格たるや2000円以下と以前をも上回る値下げ額。
 そして、『攻殻機動隊』 にいたっては1000円という破格値。
 この期を逃すことは出来ないとばかりに、私はすかさず『攻殻機動隊』を購入した。中古なら、さらに安いだろうということは念頭にはなかった。
 どういうわけか『サンパギータ』もワゴンセールになっており、R的には士郎正宗の人気がないということが露呈した。
 かように複雑で、怪奇で、奇妙なRの値付け。
 この一連の経過は以下のグラフのとおりである。



Wagon01



 なお、大逆転といえば『ドラゴンヴァラー』はワゴンセール行きを免れ、今でも定価販売されている。



奇妙な違和感



 Rの奇妙な挿話をもう一つ。
 Rではセガ商品は一切扱っていないのだが、どういうわけか『スペースチャンネル5』だけが売られていた。
 しかも、プレステ用ソフトとして。
 そして、今回のワゴンセールに際して、『ドリームキャスト用商品です』とシールが貼られて、しっかりとワゴンセールの仲間として売られることとなった。



掘り出し物



プレステ商品として扱われていた 『スペースチャンネル5』





スペースチャンネル5スペースチャンネル5
価格:¥ 6,090(税込)
発売日:1999-12-16


(このあと『スペースチャンネル5』はプレステ2に移植されている)



購入品



『攻殻機動隊』



2000年12月10日日曜日

大いなる遺産(N区Hにて)

思い出とともに



 私の近所には、昔からの馴染みのオモチャ屋さんのHがある。
 私が物心ついた頃からその店はあるので、かれこれ20年近く営業していることになる。
 昔はウグイス廊下ばりの板張り床であったが、今は床だけはフローリングされている。
 だが、その店のたたずまいは今も変わりない。
 今回は、その店を訪ねることにした。



レジェンド



 ゲームコーナーは二階にあるのだが、ゲームコーナーに踏み込んでいきなり目に飛び込んできたのが『カセットビジョン』のワゴンセールであった。
『カセットビジョン』とはファミコンと同時期に登場したゲーム機である。
 カートリッジ方式を採用しており、ゲームも『ドラゴンスレイヤー』を揃えるなど、現在のファミコンの地位を脅かすだけのポテンシャルは十分に持っていたはずである。
 だが、ファミコンに比べて遙かに高価であり、さらに使いづらいコントローラーが不評でメジャーな存在になれず、市場から消え去った。
 その『カセットビジョン』が、一本どれでも1000円という高いのか安いのかわからない値段でワゴンセールされていた。
 ちなみにハードの方も販売されている。



歴戦の強者たち



『カセットビジョン』に驚いた私をさらに衝撃を襲う。
 次に発見したのは、『ファミコン専用カセットテープレコーダー』。
 これは、まだ『ディスクシステム』や『ターボファイル』が登場する以前に、ファミコンの外部記憶装置として登場したもので、今で言うところのDATである。記録媒体として使用するのは市販のカセットテープである。
 主にファミリーベーシックで作成されたプログラムを保存するものだったのだが、他にも『ロードランナー』のマップコンストラクションで作成したステージを保存することなどができた(『ロードランナー』の自作マップをムック形式にして売っていた)。
 他にも『ジョイボール』も売っていた。
 少し前なら『ディスクシステム』も売っていたのだが、今回は見あたらなかった。売れてしまったのだろうか?
 これらファミコンの外部機器は、驚くべき事に全て定価で販売されている。
 そのいずれもが新品なので当然といえば当然なのだが、商売する気があるのだろうかと勘ぐってしまうが、それさえもまた趣深い。
 なお、その後、セガの『メガドライブ』のソフトも発見したことも付記しておく。



掘り出し物



『カセットビジョン』一式
『ファミコン用カセットテープレコーダー』
『ジョイボール』



購入品



なし



2000年12月5日火曜日

ナムコの凋落(C区Iにて)

噂を訪ねて



 Iでは中古プレステソフトを、さらに廉価で販売するという安売りコーナーを設けている。
 今回は、そこの安売りコーナーを訪ねてみることにした。



ワゴンセールの常連



 色々な店で、色々なワゴンセールをやっているが、たいていの店に置かれているのが、ナムコのゲームである。
 ワゴンに並ぶのは、プレステの黎明期を支えた『リッジレーサー』シリーズ、 プレステの大躍進のきっかけとなった『鉄拳』シリーズと、一昔前なら壮観とも呼べるラインナップである。
 これらの名作が500円前後で買えるというのだから、時代は変わったものである。
 1500円で粗製濫造されるゲームより、こちらの方がお買い得度は遙かに高いだろう。
 卓越した技術と、ゲーム業界を常にリードしてきたトップカンパニーのナムコ。
 プレステ2の登場期も、『リッジレーサーⅤ』がプレステ2の描画能力を示すサンプルとして、各種メディアに露出していたものである。



 ところが最近のナムコはセールス的には不調である。今やゲームではなく、不動産で会社を持たせているなどと揶揄されるほどだ。
 技術があり、ゲーム的に完成されたものであっても、セールス的に不調なものは容赦なくワゴンセール行き…マーケットは売り上げに対して、常に厳しく、冷たい。
 ちなみにゲームとしては遙かに時代が古いゲームばかりを収録した『ナムコミュージアム(含むアンコール)』シリーズは、なかなか中古でも価格が下がらない。
 現在となっては技術的には劣るゲームの方が、最新技術を駆使したゲームの数倍の値段で販売されているとは……これだからワゴンセールは趣きがある。



なんだ、これ?



 なお、これだけナムコゲームに感慨を寄せておきながらも、私が買ったのは380円と異様に値段が安かった『TIZ』と、山田章博のイラストでジャケ買いしてしまった『マーメノイド』というRPGであった。
 ちなみに『TIZ』は、声優にホンジャマカの石塚や爆笑問題、そして水森亜土を起用。豪華なのかどうかよくわからないソフトである。



掘り出し物



なし



購入品



『TIZ』
『マーメノイド』



2000年12月2日土曜日

幻のマルチメディアマシン(C区Rにて)

■出会い



 私が「ワゴンセール」に山積みになったゲームを意識するようになったのは、C区にあるRというデパートでバイトするようになってからである。
 Rのオモチャ売り場の一角に設けられたワゴンセールスコーナー。
 その中でもひときわ目を引いたのが、超巨大ボックス仕様の『同級生2 初回限定版』 であった。
 登場キャラクタのフィギュア12体が同梱されているという代物なのだが、メーカーの思惑とは裏腹に初回限定版は大量に売れ残ってしまった。その巨大な箱は、どの店に行っても邪魔者扱いされながら、店の片隅に積まれているのが日常的な光景となっている。
 そんな『同級生2』は見慣れていたのだが、その脇に、大きさでは勝るとも劣らない不思議な箱が置かれていた。
 それが『メディアボックス』 であった。
 タイトーが開発した、テレビと接続するだけでインターネットが出来るという、いわゆるセットトップボックスのようなものらしい。ピピン@のようなものと言った方が、分かりやすいかも知れない。
 そればかりではなく、ゲームやカラオケまで出来るという、まさに夢のマルチメディアマシン……らしいのだが、そんなもの今まで見たことも聞いたこともなかった。
そもそも、セットトップボックスが成功した例なんて、とりあえず今の時点では聞いたことはない。
 よくも、こんなハードを開発したものだ……とタイトーに驚き呆れたものだが、同時にこんな代物を仕入れたRも大したものである。
 とりあえず、ワゴンセールということで半額で売られてはいたが、それでも2万円近い金額である。
 当然と言うべきか、いつまで経ってもメディアボックスは売れることはなく、その巨体をワゴンの中で窮屈そうにかがめていた……



■日常



 いつも、そこにあるメディアボックス。
 次第に私はメディアボックスの動向が気になり始め、オモチャ売り場の前を通るたびに、メディアボックスの所在を探すようになっていた。
 時にはゲーム売り場からワゴンが移動したりもしたが、それでもメディアボックスは『同級生2』と一緒に、寄り添うようにそこにいた。
「いつになったらメディアボックスが買われるのだろうか」、いつしか私は子を持つ親のような心境になっていた。



■別れは突然に…



 そして、その日は突然やってきた。
 Rに新たにサンリオの専門ショップがオープンし、その影響でオモチャ売り場が縮小された。
 そして……ワゴンセールのワゴンは撤去されていた。
 メディアボックスは、ない。  跡形もなく消えていた。
 誰かに買われていったのだろうか……?
 真相は分からない。
 ……まるで祭りの後のような物寂しさと、趣深い情緒のようなものが、私の心の内に残った。
 ワゴンセール……いつ消えるともわからない、その危うさと、売れないゲームのもの悲しさ。
 このメディアボックスの存在が、私にこのコンテンツを立ち上げさせるきっかけとなったのである。



■掘り出し物



メディアボックス



タイトー メディアボックス M88S 家庭用通信カラオケタイトー メディアボックス M88S 家庭用通信カラオケ
価格:¥ 41,790(税込)
発売日:



■購入品



なし